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津地方裁判所 昭和30年(ワ)164号 判決

主文

被告は、原告に対し、金五万円を、支払え。

原告のその余の請求を、棄却する。

訴訟費用中金千九百円は原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

本裁判は、原告勝訴の部分について、仮りに、執行することができる。

事実

(省略)

理由

原告が昭和八年五月八日訴外山口千代と婚姻し、昭和二十二年十月末頃から、肩書地において「津ホテル」の屋号で旅館等を営むものであること、被告が昭和二十四年頃から、しばしば、宿泊客として、右旅館に投宿し、また飲食したりして原告と親しくしていた間柄であつたことは、当事者間に争いがない。

しかるところ、原告は、被告が、昭和二十五、六年頃から、右千代とねんごろになり、原告が右千代と離婚するに至つた昭和二十八年四月頃までの間、不倫関係にあつたと主張するので、按ずるに、その成立に争いのない甲第一号証の一、二、乙第四号証、証人棚橋石男、青山久四郎、矢田新蔵、山口千代(一部措信しない点を除く)の各証言を総合すると、被告は、昭和二十七年十一月二十日の前後頃、津市丸之内殿町の待合「藤田」方で前示千代と同宿した事実があることが認められるから、その間不倫関係があつたものと推認できるのみならず、それが前示千代の 像写真であることについて争いのない甲第二号証の表の部分並びに証人寺本善六、寺本善男、矢橋市次郎、山口千代(一部措信しない点を除く)の各証言、被告本人の尋問結果(一部措信しない点を除く)を総合すると、被告は、昭和二十五年の七月頃夫婦間の不和のため、夫たる原告の許から一時逃れんとした前示千代のため、知人である四日市市天ケ須賀寺町寺本善六方二階一室を世話し、右千代がそこに三、四十日逗留していた間に、二、三回同女を訪れて、同宿した事実があることが認められるから、その間、前示同様不倫の関係があつたものと推認でき、右認定に反する証人山口千代の証言及び被告本人尋問の結果は措信し難く、又その成立に争いのない乙第一ないし第六号証によるも右認定を左右することができない。しかし、原告主張のその余の不倫の事実については、これを認めるに足る証拠がない。

そして、原告が右千代と昭和二十八年四月十六日調停により離婚したことは、争いのないところであるが、その家庭の平和を害され、その夫婦関係を破壊せられ、ついに、右の離婚の止むなきに至つたことについては、前示被告の所為もその一原因をなしているものと解せられ、これによつて、原告が多大の精神上の打撃を蒙つたことは、推測に難くないところである。

したがつて、被告は、原告に対し、その精神上の損害を慰藉すべき不法行為上の責任を免れないものと云うべく、原告は、これが慰藉料として、金三十万円請求するので、その額を按ずるに、原告が津市丸之内本町で「津ホテル」の屋号で、旅館業を営み、津市で中流の生活を営むものであることは、当事者間に争いがないが、原告が資産二百万円を有する点は、これを認めるに足る証拠がない。他方、被告が訴外長野林産合名会社の代表社員であることは、当事者間に争いがなく、その成立について争いのない甲第四ないし第六号証や被告本人尋問の結果によると、被告は、昭和三十一年十一月から、現在に至るまで肩書居村の村会議員の職にあり、二町歩に余る山林を所有し、また小型貨物自動車の所有名義人であることも認められるので、これら事情を考慮の上、原告が被告に請求し得べき本件慰藉料は金五万円をもつて相当とすべく、その限度で原告の請求を認容し、これを超過する分の請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十二条本文に従い訴訟費用中金千九百円(訴訟物の価額五万円をこえる価額二十五万円に対する貼用印紙相当額)を原告、その余を被告の負担とし、同法第百九十六条に則り原告勝訴の部分について、仮執行をすることができることを宣言し、主文の通り判決する。

(裁判官 松本重美 西岡悌次 西川豊長)

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